自筆証書遺言の保管制度

自筆証書遺言の保管制度とは、作成した自筆証書遺言を管轄の法務局(遺言書保管所)にて保管してもらい、遺言者が亡くなった後の証明書の発行や通知等により、遺言者の意思の実現や相続手続を行いやすくするための制度です(法務局における遺言書の保管等に関する法律・以下、遺言書保管法)。

遺言書を作成する方式としては、自筆証書遺言の他に公正証書遺言秘密証書遺言がありますが、自筆証書遺言が最も簡易に安く作成することができます。しかしその反面、遺言は様式が厳格に決まっているため、様式不備で無効な遺言を作成してしまう可能性があります。また、遺言者が作成した遺言書を自分で保管していると紛失リスクがありますし、亡くなった後も相続人に見つけてもらえない場合や、不利な遺言を残された相続人が改竄や破棄してしまう可能性があります。

そこで上記デメリットをなくすために、法務局の遺言書保管制度を利用することができます。(ただし、自筆証書遺言には変わりがないため、遺言書自体は自身で作成する必要があります。)

利用方法としては、管轄の法務局に予約した上で、遺言書保管申請書、作成した遺言書等を用意し、当日本人が法務局へ行き申請をします(遺言書保管法第4条6項・代理申請はできませんし、公正証書遺言の様に病院などに出張してもらうことはできません)。なお、管轄の法務局は、遺言者の①住所地②本籍地③不動産の所在地のいずれかを選択します。全ての法務局が対応しているわけではなく、例えば三重県内の法務局(津地方法務局)でいうと、鈴鹿出張所と尾鷲出張所は対応していないため、①②③とも鈴鹿市である場合、管轄は津市の本局になるため注意が必要です。手数料は、1通3,900円です。

遺言の保管申請が完了した後は、遺言書原本は遺言者の死後50年間画像データ・情報は150年間保管されます。遺言者の生前は、遺言者は遺言内容を閲覧して確認することができますし(遺言書保管法第6条2項・1回1,700円)、遺言の原則通り撤回することも可能です(遺言書保管法第8条・無料)。なお生前は、推定相続人等の遺言者本人以外の人が閲覧することはできません。

遺言者が亡くなった後は、相続人、受遺者、遺言執行者等は、遺言書の閲覧(遺言書保管法第9条3項)や遺言書情報証明書(遺言書保管法第9条1項2項・遺言内容も記載・1通1,400円)の交付申請をすることができますし、そもそも遺言が存在するか分からない場合は、遺言書保管事実証明書(遺言書保管法第10条・遺言内容は未記載・1通800円)の交付申請をすることができます。各種相続手続は、遺言書情報証明書をもって行うことになります。遺言書保管制度を利用すると、家庭裁判所の検認も不要になります。

遺言者が保管申請時に、亡くなった時に通知される相続人や遺言執行者を指定(1名のみ可)しておくと、遺言の存在に気づかれないということも少なくなります。ただ公正証書遺言と比較すると、手数料は安くすみますが、遺言書自体は自筆で作成する必要がある、病院で寝たきりの場合などは利用できない、遺言書情報証明書の交付申請に被相続人の出生から死亡までの除籍謄本等を用意する必要があるなど、多少のデメリットがあります。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次