抵当権抹消登記(相続登記の要否)

抵当権抹消登記を行う場合に、抵当権設定者(不動産の所有者)が亡くなって相続が発生している場合、抵当権の消滅原因日が相続日より前か後かにより、抵当権抹消登記の前提として行う相続登記の要否が異なります。

抵当権抹消登記は、抵当権者(銀行や信用金庫等)と抵当権設定者(不動産の所有者)の共同申請により行います(不動産登記法第60条)。この場合に、登記申請時点で抵当権設定者が亡くなっている場合、共同申請をすることができないため、実際には抵当権者と抵当権設定者の相続人との共同申請となります。ここで、抵当権抹消登記に先立って相続登記を行う必要があるか否かにつき、日付の前後が関係してきます。

まず、抵当権消滅原因日が相続日より前の場合は、相続登記をせずに抵当権抹消登記を行うことができます。例えば、抵当権解除日が2022年2月1日相続日が2022年3月1日の場合で、抵当権抹消登記申請を2022年4月1日に行う場合、先立って相続登記を行う必要はありません。抵当権が実体法上消える2月1日時点では抵当権設定者は生存しているため、相続が発生していないからです。ただし、4月1日時点では抵当権設定者は亡くなっているため、登記申請は相続人が行います(不動産登記法第62条)。実体法上は、抵当権抹消登記を行う権利を相続人が承継していることになります(民法第896条本文)。もっとも、所有者が亡くなっている以上、いずれは相続登記を行うことにはなるので、遺産分割がまとまっていないが、とりあえず抵当権だけ消しておきたいなどの場合に実益があります。相続人が複数人いる場合でも、相続人のうちの一人で抵当権抹消登記を行うことができます(保存行為)。

次に、抵当権消滅原因日が相続日より後の場合は、抵当権抹消登記に先立って相続登記を行う必要があります。例えば、相続日が2022年2月1日抵当権解除日が2022年3月1日の場合で、抵当権抹消登記申請を2022年4月1日に行う場合、相続登記をせずに抵当権抹消登記を行うことはできません。そのため先に相続登記を申請しておくか、①相続登記、②抵当権抹消登記の連件で登記申請を行うことになります。

日付の前後により相続登記の要否が異なるのは、不動産登記法が現状の権利関係だけでなく、権利変動の過程も公示(一般に分かる様に)するとの考えで規定されているからです。後の例でいうと、抵当権が実体法上消える3月1日時点では、抵当権設定者はすでに生存していないのに、相続登記をせずに抵当権抹消登記がされてしまうと、登記上矛盾が生じてしまうため、この様なルールとなっています。

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